レオザフットボール氏の『蹴球学』は、攻撃だけでなく守備についても“再現性のある原則”を徹底的に言語化した戦術書です。
現代守備は「気持ち」「ハードワーク」で語られることが多い一方、実際には 構造・配置・角度・誘導 という高度な原理が勝敗を左右します。

この記事では、本書の守備編（講義13〜17）と応用編（アーセナル vs マンC、PSG vs バイエルン）を、背景から実例まで深掘りしてわかりやすく解説します。

---

============================

◆守備編：現代守備を理解する5つの原則

============================

---

▶講義13：相手から選択肢を奪う「同サイド圧縮」

●同サイド圧縮とは？

相手がボールを保持しているサイドへ、
自分たちも意図的に人数を集中させる守備方法。

目的は
・相手の選択肢を減らす
・縦・横の出口を封じる
・奪いどころを明確にする

現代サッカーの守備は“中央を締める”が基本。
その中で同サイド圧縮は、相手を窒息させてボール奪取を確率化する手段。

---

●戦術的背景：ゾーンディフェンスの進化

昔のサッカーは「人を捕まえる」が基本だったが、
現代は ゾーンで相手を誘導し、構造的に奪う時代。

同サイドに寄せることで、
相手は逆サイドへ展開しづらくなる。

展開されても、
・味方全体がスライドしやすい
・相手の攻撃テンポを遅らせられる

というメリットがある。

---

●実例

・アトレティコ・マドリード（シメオネ）が徹底
→同サイドに寄せて“檻”を作り、ボールを刈り取る
・アーセナル（アルテタ）も同サイド圧縮＋トリガーで奪う守備を採用

日本代表も徐々にこの仕組みを取り入れつつある。

---

▶講義14：クロス対応のロックとT字の原則

●ロックとは？

クロスに対してマーカーを“固定”し、
自由に動かせないようにする守備。

ロックが外れると失点リスクが跳ね上がるため、
特に日本人DFに必須の技術。

---

●T字の原則とは？

クロスが上がる瞬間、
CB・SB・ボランチが T字を描くような距離感 をつくる。

このT字のメリット：
・こぼれ球を拾いやすい
・相手のランニングに対して角度が作れる
・味方同士が重ならない

クロス対応は「跳ね返すだけでは不十分」で、
セカンドボールの構造が最重要。

---

●実例

・日本代表がW杯で失点する原因の多くは“ロックの外れ”
・プレミアリーグはT字の精度が高く、セカンド回収率が圧倒的

---

▶講義15：1対1で優位に立つ「ポークの原則」

●ポークとは？

相手に身体をぶつけて奪うのではなく、
足先でボールに触れて奪う技術（poke）。

身体で当たり負けしやすい日本人にとって、
ポークは“世界で戦うための最重要スキル”。

---

●なぜポークが有効か？

・相手の重心移動を読んで触れるだけで奪える
・リスクが低い
・ファウルになりにくい
・連続アクションに移りやすい

体格差を技術で埋める守備の方法であり、日本の育成年代にこそ必要な概念。

---

●実例

・遠藤航はこの「触って奪う」技術が世界トップクラス
・冨安健洋も相手の重心を見て“最適なタイミング”で触る守備を徹底
→両者ともフィジカル以上に「奪う技術」で勝っている

---

▶講義16：トランジションの原則

●攻撃→守備、守備→攻撃の“切り替え”は構造で決まる

トランジションは走力ではなく 準備 がすべて。

攻撃中に
・誰がリスク管理しているか
・どこでボールを失う可能性が高いか
・奪い返しの距離は適切か

これらが整理されていると、切り替えが圧倒的に早くなる。

---

●戦術的背景

現代サッカーはポゼッションよりトランジションが勝敗を決める。
理由は：
・相手が整っていない瞬間を攻められる
・プレッシングの成功率が高い
・最小の人数でチャンスを作れる

---

●実例

・リバプール（クロップ）の“ゲーゲンプレス”は世界最強のトランジションモデル
・アーセナルも「攻撃しながら守備の準備をする」構造を徹底

---

▶講義17：合理的でない戦術のメリット

●合理的ではない“ように見える”戦術

サッカーでは、
相手に読まれないこと自体が武器 になる。

一見非合理でも、
「意外性」「相手のストロング封じ」が目的場合は合理的になる。

---

●例

・CBを前線に上げるパワープレー
・極端に偏った立ち位置
・MFを敢えて高い位置に置く
・サイドチェンジをしないで攻め続ける

これらは状況によっては最適解となる。

---

●実例

・レアル・マドリードは“自由”に見えるが、相手の予測を外すための戦術でもある
・日本代表も苦しい試合で「戦術的な意外性」が勝敗を左右した試合が多い

---

============================

◆応用編：世界の強豪クラブの試合を戦術的に読み解く

============================

---

▶応用編1：アーセナル vs マンチェスター・シティ

●ポジショナルプレーの真髄

この試合は、
・立ち位置の優位性
・ハーフスペース支配
・同サイド圧縮の使い方
・偽SBとIHの関係

など、現代サッカーのすべてが詰まった試合。

---

●着目点

●アーセナル
・冨安が内側／外側を柔軟に使うことで、中盤の優位性を確保
・ジャカとウーデゴールの入る“角度”がとにかく優秀

●マンチェスター・シティ
・デブライネが動くことで相手の守備ラインが”連鎖的にズレる”
・ロドリの立ち位置が中央の安定をもたらす

この試合を見るだけで、「配置で試合が決まる」ことが理解できる。

---

▶応用編2：PSG vs バイエルン

●スター軍団同士の“スペース管理の質”

この試合は、
スター選手の個人能力に目が行きがちだが、
実は スペースの管理・奪い所・出口封鎖 に注目すると戦術の奥深さが見える。

---

●着目点

●PSG
・メッシ・ネイマールは守備で戻らないが、前残りの“脅威”として機能
→相手CBが上がれず、バイエルンの前進を制限

●バイエルン
・ボランチの“位置のズラし”でPSGの前線のプレスを回避
・SBが内側に入り、中盤に三角形を構築して前進

個の強さ × 戦術構造 の両立が見られる良試合。

---

============================

◆まとめ：日本が世界と戦うために必要なのは「守備構造」

============================

守備編で何度も強調されているのは、
守備は気持ちではなく構造で整えるもの ということ。

・同サイド圧縮
・T字の原則
・ポーク
・トランジションの準備
・意外性を使った戦術

これらの要素を“言語化して共有”することこそ、
日本が世界基準へ近づく方法だと言える。

本書はその戦術的土台を、誰にでも理解できる形で示しており、
選手・指導者・ファン全員に価値のある一冊となっている。