【徹底解説】『蹴球学』攻撃編まとめ|日本サッカーが“世界で点を取る”ための12の原則

レオザフットボール氏の『蹴球学』は、現代サッカーを理解する上で欠かせない「戦術の言語化」を徹底した戦術書です。
特に攻撃編は、ポジショナルプレーを軸に “なぜその動きが必要なのか” を論理的に説明している点が特徴。

ここでは、各講義を 背景/戦術的意図/実戦例 まで踏み込み、より深い理解が得られる形でまとめ直します。


◆攻撃編:12の講義を徹底深堀り


▶講義1:ポジショナルプレー × 正対理論

●なぜ「正対」が重要なのか

正対とは、
ボール・味方・スペース・相手の4つに対して、最も選択肢が増える角度で身体を向けること。

正対ができていないと、
・半身の角度が悪くて前に運べない
・プレスを受けた瞬間、選択肢が消える
・味方のサポート方向とズレる
といった問題が起きる。

逆に正対ができると、
・前向き/背負う/横に流すすべて選べる
・相手より速く判断できる
・攻撃のテンポが落ちない
など、攻撃の基盤となる。

●戦術的背景

ポジショナルプレーは「立つ位置の優位性」が特徴だが、
位置だけ整えても“体の向き”が間違っていれば機能しない。

スペインやマンチェスター・シティの選手が上手いのは、
パスが速いからではなく 身体の向きで時間を作っている から。

●実例

・ブスケツが中央で受けても奪われないのは、受ける瞬間の角度が完璧だから。
・日本代表の遠藤航も、正対することでプレッシャーを無効化できるようになった。


▶講義2:サイドバックは低い位置で張ってはいけない

●なぜSBを低く置くと攻撃が詰まる?

低い位置のSBが幅を取ると、
・相手のウイングが簡単にプレス
・センターバックの選択肢が限定
・中央で数的優位が作れない

つまり攻撃の「出口」が消える。

●現代サッカーのSB役割

今のSBは“守備的選手”ではなく、ビルドアップの中盤役

・偽SB(内側へ絞る)
・ハーフスペースSB(中間のレーンに立つ)
・高い位置で数的優位を作るSB

など、相手のプレス構造を崩す配置が求められる。

●実例

・マンチェスター・シティのカンセロ・ウォーカー
・アーセナルでの冨安健洋の「偽SB」運用
→いずれも“低い幅取り”ではなく、中央構築に参加して攻撃を操っている。


▶講義3:Waiting Point論と3つのアピアリング

●「待つ」ことは攻撃の武器

多くの選手は“動くこと”に意識が向きがち。
しかし攻撃で重要なのは 相手を動かすための“待ち”

むやみに走ると、
・味方のパスコースから消える
・相手DFの視野に入りやすい
・タイミングが合わない

逆に“待つ”ことで、
→相手のラインがズレた瞬間に“出現”できる
→パスが通る確率が跳ね上がる

●3つのアピアリング

①引く(相手をおびき寄せて裏を空ける)
②割る(相手DFの間に入り込む)
③抜ける(タイミングよく裏へ出る)

●実例

・ユルゲン・クロップのリバプールは“待つ”裏抜けが秀逸。
・日本代表の伊東純也も「待ち→一撃」の動きが世界レベル。


▶講義4:3-3-4システムの万能性

●なぜこのシステムが現代的なのか

3-3-4は、
・前線人数を4枚確保
・中盤3枚で中央を支配
・SB問題を構造で解決
・即時奪回をしやすい

という利点を持つ。

4-3-3の形では前線が孤立しやすいが、
3-3-4では“幅と高さの確保”が容易で、攻撃がスムーズ。

●戦術的焦点

・ハーフスペースの優位性
・前線のローテーション
・中盤での三角形
→日本人が理解しやすく、組織的攻撃と相性がいい配置。


▶講義5:属性表でわかる最高攻撃ユニットの作り方

●攻撃は“誰を組み合わせるか”が最重要

能力の高い選手を並べても、相性が悪ければ機能しない。
そこで必要なのが “属性の見える化”

例:
・キープ系
・推進力系
・フィニッシュ系
・ラストパス系
・裏抜け系
・ボール奪取系

これらをユニット内でどう混ぜるかが勝敗を左右する。

●実例

・マンCはハーランド(フィニッシュ)×デブライネ(ラストパス)×ベルナルド(保持)で期待値最大化
・日本代表で伊東×久保×三笘を同時起用するとバランスが崩れる理由も属性の観点から説明できる。


▶講義6:矢印理論

●プレー方向を揃える

選手の身体の向き=矢印。

矢印が揃うと、
・連続的に前進
・相手に守備の時間を与えない
・崩しのスピードが増す

逆に矢印がバラバラだと停滞したり、バックパスが増える。

●例

・ペップのシティは、全員が矢印を揃えながら三角形を維持するため、攻撃が止まらない。


▶講義7:攻撃における“良いプレー”のセオリー

●良いプレー=成功確率を最大化するプレー

ドリブル突破、華麗なスルーパスなど“派手なプレー”が良いとは限らない。

重要なのは、
チームとしての攻撃確率が上がるかどうか。

・相手を引きつける
・三角形を作る
・正対で受ける
・角度を作る

など、成功率を高める動きを選択することが「良いプレー」。

●例

遠藤航がリバプールで評価されるのは、
“派手ではないが確率の高い選択をし続けるから”。


▶講義8:4バックと3バックはどっちが強い?

●優劣ではなく“狙い”で選ぶ

・4バック=横幅を使いやすい
・3バック=ビルドアップの安定性が高い

重要なのは、
・どこで数的優位を作りたいか
・どこに人を配置したいか
・相手がどんな守備をしてくるか

布陣の形そのものより、意図が戦術を決める


▶講義9:クロースロールとアンカー落ち

●降りる動きには“目的”が必要

アンカーが降りると、
・数的優位が生まれビルドアップが安定
・CBが広がりパスラインが増える

しかし過度に降りると、
・前線の人数が減って厚みが消える
・相手にラインを上げられる

●例

・クロースは降りるだけでなく「受けた後にどう進めるか」まで設計されているため機能する。


▶講義10:ニアゾーンラン

●ニアへの動きは最も守りづらい

ニアに走ると
・相手CBの重心がズレる
・味方のクロスが合わせやすい
・セカンドボールも拾いやすい

特に、“角度を変えながら飛び込む”動きが重要。

●例

・レヴァンドフスキは、ニア→ファー→ニアの揺さぶりで相手を完全に外す。


▶講義11:最大限の高さの原則

●前線が高い位置に立つメリット

・相手DFラインを下げさせる
・中盤にスペースができる
・攻撃テンポが上がる

逆に前線が降りすぎると、
・相手DFが前へ出てこれる
・ビルドアップが窒息
・ゴールに遠くなる

●例

・マンCのハーランドは常に高い位置を取るため、中盤でデブライネが自由に動ける。


▶講義12:最小限の幅の原則

●幅は“広すぎると逆に非効率”

幅を取りすぎると:
・中央の人数が減る
・フィニッシュ期待値が下がる
・距離が遠くなる

最小限の幅を取ることで、
・中央で密度を作れる
・崩しのテンポが上がる
・こぼれ球の回収率が上がる


◆まとめ:日本が世界で点を取るために

攻撃編で繰り返し強調されるのは、
「再現性を持った攻撃構造を持つこと」

・身体の向き
・立ち位置
・適切な幅と高さ
・タイミング
・ユニットの相性

こうした“構造”が整ったとき、日本サッカーは一段上のレベルに到達する。